2022ツール・ド・フランスが開幕して1週間。
各ブランドはツールに合わせて新しいバイクや製品の発表を行ったり、新しい製品のテストをプロライダーが行っている。
昨年は、軽量エアロがトレンドとなっていたけれど、今年のプロライダーのバイクトレンドはどうなっているだろうか?
重いバイクが増える
UCIの規定では、バイクの重量は6.8kg以上と決められている。だが、今年のプロが乗るバイクは結構重いものが多い。
メーカーが「新しいバイクは前のモデルより軽くなった」と言うのは、真実だ。だけど、これには少しトリックがある。
新しいバイクの重量は、通常、軽量ペイントや軽量パーツで仕上げられている。そして、ペダル、ボトルケージ、コンピュータマウント、アクセサリーなどをは装着しない状態の最軽量セットアップで計測される。
一方、ツールで使われるバイクは、ほとんどが注目を集め、写真映えするようにデザインされたチーム独自のペイントジョブが施してある。
また、ペダルはもちろんのこと、実際にバイクに乗るために必要なものはすべて装備されている。
特に、開幕のデンマークの平坦なステージに最適化された装備でライダーはのぞんでいた。
つまり、ほとんどのライダーが、通常よりも深く、重いリムと大きなチェーンリングを備えたエアロロード専用バイクを使用していたのだ。
小柄なスプリンター、Lotto Soudalのカレブ・ユアンでさえ、DT Swissの62mmディープリムを使用していた。
多くのプロライダーは、最新、最軽量、最も高価なキットを使用せず、自分好みのキットを選択する場合も多い。
例えば、Trek-Segafredoのジャスパー・ストゥイヴェンように、古くて重いBontragerのサドルや、純正品とは異なるハンドルバーを装着して、純正品よりも重量を増加させることもある。
最後に、油圧式ロードディスクブレーキへの移行が、プロトン全体の自転車重量増加に寄与していることは間違いない。
平坦では、重量はあまり関係なく、エアロバイクのほうが速い。平坦ではエアロバイクを選択するのが懸命のようだ。
新しいエアロ技術
レーススピードがますます速くなるにつれて、ライダーのエアロダイナミクスの改善への焦点は年を追うごとに高まっている。
エアロのアップグレードが顕著だったのは、最新のトレック マドンSLRやScott Foil RCなどの新型エアロロードバイク。
この2つのバイクは、以前のモデルに比べて空気抵抗が大幅に削減されていると言われている。
シュミレーションでは、空気の流れが良くなると証明されているIsoFlow。インパクト大だ。
しかし、多くのライダーやチームは、それ以上にエアロダイナミクスの効率性を追求した。
42cm幅のハンドルバーがプロのデファクトスタンダードであったが、今年のツールではほとんどの選手がより狭いハンドルバーを使用している。
今回のツールで40cm以上のハンドルバーを使用したのは、Team BikeExchange – Jaycoのクリストファー・ユールイェンセンの新型Giant Propel Advanced SLにセットされた42cm幅のハンドルバーだけだった。
こちらのGiant Propel Advanced SLも新型だ。
タコ・ファンデルホールンのCube Litening C:68X TEのハンドル設定は、その中でも最も過激な例だ。
ハンドルバーはドロップ部で約38cmだが、シフターフードは積極的に内側に向けられ、有効バー幅はわずか30cmに抑えられている。
ツールのオープニングステージがパンフラットタイムトライアルであるため、混戦を予想するチームは、いくつかの興味深いエアロトリックを使用して登場した。
タイムトライアル世界チャンピオン、フィリッポ・ガンナとINEOS Grenadiersのチームメイト数名は、Princeton CarbonWorks.による試作ホイールを装着したピナレロの新しいタイムトライアルバイク、Pinarello Bolide Fを使用した。
さらに、INEOS Grenadiersのライダーは、プラスチックで縁取られた奇妙なバイザーと、異常に大きなヘルメットを使用。
確かなことはわからないが、これらの仕掛けは、宇宙人のようなPOC Temporヘルメットのようにライダーの肩周りの気流をそらし、空気抵抗を減らすことを目的としているのではないかと推測される。
また、Specializedはサポートする3チームにS-Works TT5新型ヘルメットを提供
- Quick-Step Alpha Vinyl Team
- BORA – hansgrohe
- TotalEnergies
S-Works TT5ヘルメットは、同様の原理で設計されているようだが、2022ツール第1ステージ勝者のイヴ・ランパールトを含むすべてのライダーがこの日にそれを着用することを選んだわけではなかった。
S-Works TT5ヘルメットの下には、内蔵されたHead Sockがある。夏は間違いなく暑くて死んでしまいそうだ。これが嫌で使用しなかったライダーもいるのでは。
パーツの供給不足
ツールはスポーツの最大のショップウィンドウかもしれないが、サイクリングの最大手ブランドのシマノでさえ、そこに展示するための在庫不足に悩まされているのが現状だ。
ほとんどのスポンサーチームがロードバイクに最新のデュラエースDi2 R9200グループセットを搭載している一方で、有力チームでさえもタイムトライアルバイクには搭載することができない。
新しいデュラエースR9200パワーメーターも品薄で、多くのライダーは、まだ古いデュラエースR9100パワーメータークランクセットを代わりに使っている。
2018ツール覇者のゲラント・トーマスでさえR9150を使っている。
さらに、世界選手権TT連覇中のフィリッポ・ガンナは、11速のデュラエースDi2 R9100を搭載したバイクで乗り切らなければならなかった。
ロードバイクには用意できても、TTバイクまでは手が回らないというのが現状のようだ。
旧R9100クランクセットの11速チェーンリングは、公式には12速チェーンと互換性がなく、また、レースシーンで両者を混合して併用するとチェーン落ちが多くなったというチームも多数ある。
そのためか、チェーンキャッチャーを使用するチームも見受けられる。チェーンキャッチューの内側にチェーンが落ちると最悪だけど。私は、もう使用しない。
Lotto Soudalは、Campagnoloからシマノにパーツスポンサーが変わっている。
だけど、Ridley Dean time trial bikeのタイムトライアルバイクには、Campagnolo Super Record EPSグループセット引き続き使用している。
これも、シマノのパーツが手にはいらないからだ。
Team BikeExchange – Jaycoは、女子チームから12速のデュラエースのパーツを借りて、男子チームのバイクに装着しなければならなかったほど。
プロでさえ、手に入らないのだから一般ユーザーの供給不足が解消されるのは、まだ先のようだ。
新しいタイヤ技術
チューブレスタイヤ・ホイールシステムへの移行は、ますます加速している。
INEOS GrenadiersやIntermarché – Wanty – Gobert Matériauxのように、ロードステージではコンチネンタルGP5000S TRを使用。
開幕戦のタイムトライアルでは新型のチューブレスタイヤを使用するなど、完全にチューブレスセッティングに切り替えたようなチームもある。
もちろん、ツールが山岳地帯に移動した後もそうであるかどうかは不明。
だが、今年の山岳地帯での以前のレースでは、これらのチームは今のところチューブレスタイヤにこだわっているようだ。
ロードバイク業界全体の傾向として、プロのタイヤサイズも大きくなり続けている。
質の良い舗装路のステージでも、700×28cのタイヤで走るライダーが増えているのが現状だ。すでに、その傾向は2018年くらいから続いている。
例えば、Trek-Segafredoのジャスパー・ストゥイヴェンは、トレック・マドンSLRに700×28cのピレリPゼロレースTLRタイヤを装着していた。
BontragerAeolus62 RSLホイールは、リム幅が23mmとゆったりしているためか、より大きく見える。
また、あるタイヤブランドは、レースの状況に応じてタイムトライアルでも28cタイヤを使っているライダーがいるとコメントしている。
28cは石畳のクラシックレースのためのものだった時代から、ずいぶんと変わってきたものだ。
とはいえ、まだまだチューブラータイヤを使用しているチームやライダーは少なくない。
- Jumbo-Visma
- EF Education-EasyPost
- Team DSM
- Team BikeExchange – Jayco
これらのチームは、チューブレスとチューブラーのVittoriaCorsaタイヤをミックスしてバイクに装着している。
Israel – Premier Techでは、ライダーはステージの地形やライダーの選択によって、クリンチャー、チューブレス、チューブラータイヤを使い分けてレースに臨むそうだ。
また、Israel – Premier Techのアシストは、チューブレスタイヤにインサートを使用することで、ちょっとした保険にもなっている。
一方、Intermarché – Wanty – Gobert Matériauxのメカニックによると、チューブレスインサートを試したが、断念したとのことだ。
装着や取り外しが面倒なことに加え、発泡スチロールのインサートはチューブレスシーラントを吸い上げる性質があるため、通常よりも多く添加する必要があるらしい。つまり重くなる。
前述のように、最近はすでに比較的重いバイクに乗っているライダーにとっては、追加の重量追加は受け入れられないようだ。
また、転がり抵抗やパンク防止性能が向上する可能性があるにもかかわらず、多くのプロがチューブラーからチューブレスへの移行に消極的なのは、この重量へのこだわりが一因である可能性が高い。
それでも、山岳ステージにのぞむ時に6.8kgに仕上がるようになれば使うようになるかもしれない。
ビッグチェーンリング
シマノ105Di2は、発売当初は50×35のコンパクトギアと11-34tカセットという軽いギアリングしか用意されていなかったが、プロにとっては逆のことが言える。
デンマークでの平坦ステージでは、54T以下のフロントギアを使用しているライダーはいなかったそうだ。
特にタイムトライアルバイクでは、さらに大きなチェーンリングを使用していた。
タイムトライヤルでは、マッズ・ピーダスン(Trek-Segafredo)とヤコブ・フルサン(Israel – Premier Tech)が60Tのギアを使用。
しかし、FSAは、スポンサーであるプロチームが開幕戦のタイムトライアルで64Tの1xカーボンファイバーチェーンリングを使用することを明らかにした。
確か、EF Education-EasyPostのシュテファン・ビッセガーが64Tのフロントギアを使っていたはずだ。残念ながら雨で2度落車してしまったけれど。
もちろん、モンスタービッグリングを使っているライダーが皆、最大のギアで走り続けているわけではない。
チェーンリングを大きくする傾向の多くは、ドライブトレインの効率を向上させるためのものでもある。
より大きなチェーンリングとカセットコグは、ドライブトレインの摩擦によって失われるパワーの量を測定可能なほど減らすことができることはよく知られている。
このような大きなフロントチェーンリングを使用している場合、リアスプロケットを少し大きくすることで、結果としてチェーンラインが改善されている。
フロントディレイラーを取り外すことは、空力的にもわずかながらメリットがあると言われており、平坦のオープニングタイムトライアルで多くのライダーがディレイラーを取り外すのを見ても不思議ではない。
しかも、チェーン落ちの心配も減る。
しかし、このような巨大なチェーンリングの使用は、プロが達成している速度が、よりスマートなトレーニング方法、パワーメーター、空力装置の大量導入のおかげで、かなり馬鹿げたものになっている事実を示している。
例えば、2022年のパリ~ルーベでは、INEOS Grenadiersのディラン・ファンバーレが257kmのレースで平均時速45.79kmを記録し、史上最速を記録したことからもわかる。
更に、2022ツール第6ステージで、ワウト・ファンアールトが148km逃げてav49.376km/hを記録している。確か、これはツール史上4番目の高速レースだったはず。
現代の重いバイクは、多くのプロの足かせにはなっていないようだ。
コメント
lottoはシマノスポンサーではなくシマノ購入に切り替わっただけですよね?
https://bike.shimano.com/en-EU/information/shimano-sponsor-ship/road-sponsored-team.html
ここに載っていないチームは自分の選択肢で購入しているチームだと聞いたことがあります。部品がないのは供給ではなく買える部品が市場に無いということでは? むしろ選択されなくなったカンパに問題があったのか、カンパがハシゴ外したのかとかのほうが気になりますが。
Lotto Soudalのサイトを見てみると
https://www.lottosoudal.be/nl/partners
しっかりと、shimanoの名前があります。2022年にLotto Soudalは、Campagnoloから切り替えてますね。
https://chan-bike.com/bikes-wheels-and-components-to-be-used-by-worldtour-teams-in-2022
誤解を与えてしまったようで申し訳ないないです。パートナーとスポンサーは明確に違うということです。
シマノさんは購入チームだからといってサポートしないわけではないですが、シマノさんの”スポンサー”という表現がされるのはリンクに書いてあるチームだけです、ということをお伝えしたかったのです。
なるほど~。そういう意味だったのですね。確かに、シマノがサボートページに乗せているのは限られてますね。
勉強になりました。また教えて下さい<(_ _)>