ボブ・ユンゲルスの苦悩は、ようやく終わりを告げたようだ。
シャテルのフィニッシュ地点に向かうツール・ド・フランス第9ステージで、ルクセンブルク出身ユンゲルスは素晴らしい独走態勢を築き、さらにそれを完走させた。
2018リエージュ~バストーニュ~リエージュの優勝者であった彼は、2年間を完全に失った後、彼のキャリアに新しい生命を吹き込む準備ができているようだ。
かつてジロ・デ・イタリアてマリアローザも着用したことのあるボブ・ユンゲルスの復活を告げるステージとなった。
64kmの独走
Good day!🙌🏻@ag2rcitroenteam @letourdefrance #rideBMC
📸 @gettysport pic.twitter.com/zTh9CGsrbI
— Bob Jungels (@BobJungels) July 10, 2022
誰も、これを成し遂げるとは思っていなかっただろう。無謀とも思えるゴール手前64kmからのアタック。
1級山岳クロワ峠をシモン・ゲシュケに続いてクリアーしたボブ・ユンゲルスは、鬼気迫る下りのスパートを見せた。
これには、シモン・ゲシュケもついていけない。さらに、下ってからも追い風がボブ・ユンゲルスを助ける。猛烈なペースでタイム差を広げていったが、誰もが登りで失速すると思っていただろう。
だが、ボブ・ユンゲルスの頭の中では、最後の1級山岳を越えてからのコースもしっかりと頭に入っていた。
1級山岳パ・ド・モルジャンを越えた後には、下りが待っていることを。元々タイムトライヤルスペシャリストでもあり、登りよりも平地が得意だ。
これまた、ツールでの復活を印象付けたいティボー・ピノが迫るが、1分46秒のタイム差を埋めることは出来なかった。
クイックステップの黄金期
ユンゲルスのキャリアは長い間、深い谷がなかったし、ソロでも素晴らしい作品を作り出している。
2015年のツールで好成績を収め、才能あるユンゲルスはすぐに頭角を現した。
Quick-Stepは、このオールラウンダーに目をつけ、トレックから彼を引き抜き、Quick-Stepのリーダーの1人として2016年のジロに送り込んだのである。
ユンゲルスは最優秀新人賞を獲得し、最終的に6位入賞を果たし、世界の自転車界の頂点への道が始まったと思われた。
ユンゲルスは翌2017年のジロでステージ優勝。第4ステージから第9ステージまでマリアローザを着用。総合8位でゴールしている。
ユンゲルスは2018ツール・ド・フランスで総合11位。
2019年にはクールネ〜ブリュッセル〜クールネ優勝、ロンド・ファン・フラーンデレン3位に入るなど、石畳のクラシックライダーとして活躍していたため、問題は誰の目にもないように見えた。
しかし、2019ジロ・デ・イタリアでは本調子にならず、総合33位。そこからシーズンが頓挫していく。ルクセンブルク選手権は制覇するのだけど、その後のレースが続かない。
2020年にはパンデミックもあったが、その不調を覆い隠すことが出来ないほどに。すでに、症状は2018年から出ていたのだ。
AG2Rでの失われた年月
Doesn’t get more unpredictable than a cobble stage @letourdefrance , bad luck for us today, together we limited the damage and together we will bounce back🤜🏼🤛🏼 @ag2rcitroenteam #ridebmc 📸 @gettysport & KBLB pic.twitter.com/DFxJ7SXStE
— Bob Jungels (@BobJungels) July 6, 2022
クイックステップでは、ユンゲルスはフィリップ・ジルベールやジュリアン・アラフィリップといった多くのスター選手とトップを分け合っていた。
それが、2020年末に去ることを決意させた。AG2R Citroënと改称されたこのチームでは、高額な給料と独裁的な地位が彼を待ち受けていた。
ユンゲルスは、この春、他の多くの選手と同じように「クイックステップの呪い」に耐えなければならないように思えたが、結局はそれ以上のものがあったということだ。
足の痛みは酷く、症状は重くなるばかりだった。
脚の動脈が狭くなったり太くなったりする「動脈内膜症」と診断されたのは、1年後の2021年のツアー・オブ・スイスからだった。
何年もの間、バイクの上で痛みに耐えてきたユンゲルスは、ようやく正しい診断が下されて、最高の状態で復帰することができるようになった。
この2年間は、精神的にとても辛かった。2年間、どのレースで活躍したいかを自分に言い聞かせながら、どうせ叶わないと思っていた。
今、私は再び大きなレースで勝つ可能性を感じている。
私のキャリアは常に上り調子で、限界はないように思われたが、突然、理由もなく減速してしてしまった。
グルペットに乗るということがどういうことなのか知らなかったが、今回、その裏側を知ることができた。
自転車競技の成績が振るわず、常に痛みがあったため、ユンゲルスは特に落ち込んだ時期があった。
一睡もできないこともあった。いろいろ考えて、悔しい思いを家に持ち帰っていた。とても大変な時期だった。このままではいけない、勝利のために戦えない人間とは思えなかったからだ。
そして突然、AG2Rのトレーナーが正しい診断をしてくれたんだ。それからは、本当にあっという間でしたね。両足にできたのですが、彼らはそれを見たことがなかった。解決して、また元の自分に戻れたことが嬉しかった。
2回目の手術から1週間後、親友から「笑顔が戻ったね」と言われた。
夏にトータルリセットを行い、シーズン最後の2週間で実感したのは、痛みなく思い切りペダルを踏めるようになったということ。
また100パーセントの力を発揮したい、ただそれだけだ。セカンドチャンスと考え、当たり前のことはしない。
AG2R Citroën Teamは、ベン・オコナーが落車の影響で総合が狙えない位置まで落ちてしまった。ボブ・ユンゲルスは、ベン・オコナーのアシストをする必要がなくなったということだ。
現在、総合16位まで順位を上げているが、あくまで目標はステージ優勝だ。再び、キャリアを取り戻す時がやってきた。
このツールでの勝利が、キャリア復活の序章に過ぎないことを期待したい。
コメント
クイックステップの呪いってなんでしょうか?
チームを去ったあとに不運があるとか、活躍できないとか、ケガするなどいった感じでしょうか。
そういう事例が多いんでしょうか。
今回の件の他にどんな例がありますか?
最近では、
サムベネットがクイックステップ時代にマイヨベール獲得したけど、ボーラな移籍してから膝痛いとかあまり活躍できてないといったようなことでしょうか。
サム・ベネットもですが、Cofidisに移籍したエリア・ヴィヴィアーニ。移籍した年にはさっぱり勝てなかったですね。
ニキ・テルプストラもそうです。TotalEnergiesに移籍しましたけど、ウルフパックのようにメンバーが揃ってないので勝てていない。
さらに、ケガもしてしまって、年も取ったし昔のように勝てることはないかも。
https://chan-bike.com/terpstra-ernstig-gewond-na-ongeluk
https://chan-bike.com/terpstra-out-of-tour-de-france
フィリップ・ジルベールもウルフパックの時ほどは、活躍出来ていない。
そうやってみると、GMのパトリック・ルフェーブルの眼力は凄いというしかない。
今年は、マーク・カヴェンディシュが去りますが、来年活躍できるのか未知数。これも当たるのかもしれませんね。