1年前に、マーク・カヴェンディシュが再びツール・ド・フランスで優勝すると言ったら、何人の人が納得しただろうか?
誰も、そんなおとぎ話は信じられなかっただろう。
2020ヘント~ウェヴェルヘムのゴール後には、最後のレースだったかもしれないと思って本人が涙していたほどだ。
2020年Bahrain – McLarenと1年契約を結んでいたが、全く勝利がなかったのだから、来シーズンの契約延長が得られるとは誰も思わなかった。どこからのオファーもない。
だが、ここから奇跡の扉が開かれるとは誰も想像もしてなかっただろう。古巣のウルフパックのGMパトリック・ルフェーブルとの会食で、チームへの復帰への条件を与えられる。
この時、チームはすでに2021年の契約を完了しており、1ユーロも財布には残ってなかった。
マーク・カヴェンディシュ自らが、スポンサーを見つけてきて最低限のサラリーでチームと契約することが出来たのだ。第1の奇跡だ。
うつ病とキス病を克服
🦅 An aerial view of @MarkCavendish‘s winning sprint!
🦅 Une vue aérienne du sprint final du @MarkCavendish !#TDF2021 pic.twitter.com/ZbDDGryvSL
— Tour de France™ (@LeTour) June 29, 2021
スプリントを行うライダーでゴールで落車してしまうことは絶対にないとはいえない。マーク・カヴェンディシュも数々のケガをしてしまう。
2018年ドバイ、ティレーノ〜アドリアティコ 、ミラノ~サンレモでは、脳震盪、肋骨骨折、むち打ち、肩の骨折も経験している。
多くのケガのあとに、医師は単核球症を引き起こすエプスタインバーウイルス(キス病)の病名を告げる。不調の原因はわかったが即効性のある治療は見つからない。
2019年にはTeam Dimension Dataからツール・ド・フランスの参加はないことを告げられる。結局、2017年ドバイツアー第1ステージの勝利から全く勝てない日々が続くことになる。
この間にマーク・カヴェンディシュはうつ病も発症。辛い日々が続いたことを後になってから告白している。
復活の勝利
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ウルフパックに復帰してからも奇跡は続いた。コロナにより多くのレースか中止になる中、ツアー・オブ・ターキーで奇跡の4勝をあげてしまう。
この時にはプロレースで、多くの一流スプリンターがいなかったからだと批評家は論評していた。
だが、バロワーズ・ベルギーツアー最終ステージで、多くの一流スプリンターの中で勝利を上げてしまうのだから力が戻っていることは明白だった。
これも、サム・ベネットが膝を痛めた為に、急遽出場したステージレースだった。
この勝利により、全く話になかったツール・ド・フランスへの出場という話が湧いてくる。
だが、サム・ベネットは一時ツールに出場という話が出ていながら、膝が治っていないことがわかり、土壇場になってマーク・カヴェンディシュの出場が決まる。
これは奇跡というしかない状況だ。引退していてもおかしくなかった選手がツールに出場するなんて。
第4ステージの奇跡
That sign needs a little update 😉
Le panneau doit être mise à jour 😉
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ツールで勝利をあげた第4ステージもそうだ。ラスト10kmでブレント・ファンムールとのタイム差は1分を越えていた。
コースが下っていること、スプリンターチームの協力が得られないこと。最後は、ウルフパックが全開で引くしかない展開に。
ラスト1km手前からは、グリーンジャージのジュリアン・アラフィリップが引き、ミケル・モルコフがリードアウトをあきらめ、ブレント・ファンムールとの差を詰めていく。
マーク・カヴェンディシュの回りには、誰もチームメイトはいない状態だった。しかも、ゴールは少し登っている。
ここでマーク・カヴェンディシュはAlpecin-Fenixのトレインの後ろを選択して、ジャスパー・フィリップセンがスプリントを開始した時に、うまく合わせてまくることに成功した。動画を見てもわかるが、実に見事に立ち回っている。
まさに、薄氷の勝利だった。
最後に優勝したのは、2016年7月16日の第14ステージ。実に、30回目のツアー優勝から31回目のツール勝利までに5年間という歳月が流れていた。
36歳になったスプリンターが再び、5年の歳月をかけて勝利してしまうなんて。病気を克服し、引退の危機を乗り越えての勝利。これを奇跡と言わずしてなんというのだろう。
ツールはまだ、続く。マーク・カヴェンディシュは、更に奇跡を見せてくれるかもしれない。完全復活したマーク・カヴェンディシュに期待しようではないか。
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