ジロ・デ・イタリアのクイーンステージとなった第19ステージ。
過酷な山岳ルートと同じくらいファンの注目を集めたのが、逃げ集団内で発生したジュリオ・チッコーネ(Lidl – Trek)とエイネル・ルビオ(Movistar Team)による激しい口論とアタックだった。
山岳賞ジャージを狙うジュリオ・チッコーネが、なぜエイネル・ルビオに対して激しい怒りを露わにしたのか。そして、エイネル・ルビオが語った「裏切り」の真相とは何だったのか。
山岳ポイントとRed Bullスプリントを巡る密約とすれ違い
Einer Rubio is not here to make friends 👀
After Derek Gee-West takes the points at the Red Bull KM, Rubio strikes back and takes the KOM points off Gee’s team-mate, Giulio Ciccone at the Giro🔥😬 pic.twitter.com/q47Lvek09g
— Cycling on TNT Sports (@cyclingontnt) May 29, 2026
事の発端は、逃げ集団内での「Red Bullスプリント」と「山岳ポイント」を巡る両者の利害関係の不一致にあった。
エイネル・ルビオは新設された「Red Bull KM」の専用ランキングでトップであり、是が非でもポイントが欲しかった。
そのため、ジュリオ・チッコーネが山岳ポイントを獲る代わりに、自身がRed Bullスプリントを獲るという密約をLidl – Trek勢と結んでいたと主張している。
しかし、総合上位につけているLidl – Trekのチームメイト、デレク・ジーは、同じスプリント地点に設定された総合争い用のボーナスタイムを狙う必要があった。
結果として、デレク・ジーが全力でスプリントを取りに行き、驚いたエイネル・ルビオは貴重なポイントを逃してしまう。
これを「事前の約束を反故にされた」と受け取ったエイネル・ルビオは、その報復として直後のファルツァレーゴ峠で意図的にジュリオ・チッコーネを出し抜き、山岳ポイントを奪い取ったのである。
一方でジュリオ・チッコーネにしてみれば、総合順位を争うチームメイトがボーナスタイムを狙うのはチームとして当然の動きであり、自分は無関係だと考えていた。
互いのコミュニケーション不足と、過酷なクイーンステージでの極限状態が生み出した確執劇であった。
両者のレース後の言い分は以下の通りだ。
ジュリオ・チッコーネの言い分
ステージ中、逃げ集団の中でほぼ全員と話しているのが見えました。エイネル・ルビオ選手とは少し口論になっているようでしたが、何があったのでしょうか?
何があったかは彼に聞いてみるべきだ。私は彼に対して何もしていないからね。
彼はRed Bullスプリントについて私に何か不満があったようだ。でもすでに言ったように、Red Bullスプリントについては私は何もできない。今日は総合争いの選手たちのための日だったし、デレク・ジーなどがそこにいたからだ。
どういうわけか私との間に何があったのかは分からないが、彼はRed Bullスプリントを勝ちたかったようだ。そして、私の目の前でスプリントをしたんだ。
私は全く準備していなかったし、あんなふうにスプリントするとは思っていなかった。明確な理由もなくね。本当にその理由はなかったはずだ。
あのポイントは私にとって金ほどの価値があった。山岳賞ジャージのために本当に戦っているのは私だけだからね。
ランキング3位の選手がまだ勝てるかは分からないが、そうは思わない。彼はあのスプリントをした。だから彼がそれで満足しているのか聞いてみるべきだ。
計算は済んでいますか?このレースで明らかに強いヨナス・ヴィンゲゴー選手がいる中で、明日に向けてポイント状況には満足していますか?
ああ、今日のプランはこれで、プラン通りにすべて完璧にこなしたと思う。明日はヨナス・ヴィンゲゴーとTeam Visma | Lease a Bikeがいるまた別の一日になる。
彼らがステージ優勝を狙ってくるなら決して簡単ではないことは皆分かっている。
最初の上りの通過から、もちろんフィニッシュラインまで、すべてがオープンになる可能性があるから、どう立ち回るか本当に計算しないといけない。もちろん、彼相手には運も必要なんだ。
エイネル・ルビオの言い分
チームメイトと共に逃げ集団で走った今日という日を少し振り返っていただけますか?どのような1日でしたか?
チームメイトの動きは良かった。狙い通り、逃げ集団に入れるように頑張ったんだ。今日はチームの誰よりも足の調子が良いと感じていたから、全力で戦ったよ。
Lidl – Trekとは山岳ポイントからRed Bullスプリントに至るまで全面戦争になっていたから、本当に激しい1日だった。
その激しい争いの中で、ジュリオ・チッコーネ選手とは何があったのでしょうか?
ジュリオ・チッコーネが山岳ポイントを獲るということで話し合っていたんだ。
私は彼らのために先頭を牽いて協力すらした。その代わり、私がその後のRed Bullスプリントを獲るという考えだったんだ。
しかし、彼らは賢く立ち回ろうとして、両方を獲った。彼らは約束を守らなかった。これもレースだが、時にはまず一人の人間としてのスジを通すことも必要だ。
私の考えだけど、ジュリオ・チッコーネはRed Bull KMでエイネル・ルビオがトップに立っており、取りたかったことは知らなかったのでは。
Red Bull KMランキングは、新しいランキングであり私自身知らなかった。現在エイネル・ルビオは36ポイントで2位のTeam Polti VisitMaltaのマヌエーレ・タロッチとは5ポイント差。
これについて、私はこれを狙っているのだから譲ってねと言っておかないといけなかったのでは。デレク・ジーもそんなことは知らなかったはず。

Tiz-cycling ストリーミング スクリーンショット
Red Bull KMのあとにエイネル・ルビオがデレク・ジーに噛みついていたのもこのためだった。
お互いの利害について、もう少し詳しく話しておいたら良かったのでは。まあ、ここは二人の間の話なので、実際にどこまで突っ込んで話していたのかはわからないけど。




コメント
これはなかなか興味深い、ロードレースらしい内容ですね。いい記事をありがとうございます。
社会人なんだから、メールやメモでちゃんと文章を残してないといけないですね(笑
ジュリオ・チッコーネは、全員とコンタクトしてましたけど、エイネル・ルビオのRed Bull KMランキングのことは知らなかったでは。
まして、デレク・ジーにまで伝言している暇はないですよね。やっぱり、lineかメールで連絡してください(笑い
ようやく意味が分かりました。ありがとうございます。チッコーネはたまにいざこざがあるような気がします。ストイックなのでしょうか。
ちゃんさんの推察が気になるのですが、
今回のジロでは、割とチーム予算のあるチームの勝利がない気がします。チームの方針もありますが、勝利がないとスポンサー的には大丈夫なのでしょうか。
リドルは、序盤の落車やトラブルで予定が狂って、20ステージまで来て、チッコーネが何も無しでは帰れないだろうと頑張っている気がします。
デカトロンは、ガルの一枚岩とアシスト陣といったメンバー構成、レッドブルは、ペリツァーリ、ヒンドレーの2枚岩とアシスト陣というメンバー構成ですが、総合シャッフルの可能性があるので、勝利よりも守りに入っている気がします。
もちろん簡単には推察できないと思いますがどうでしょうか。
※リドルはドイツの企業で、チームへの出資割合も増えているので、来季はドイツ系のチームになるという話があります。
チッコーネについてですが、彼はいざこざというよりも、感情をストレートに表現する非常に情熱的なタイプの選手なのだと思います。レース中にサングラスを投げ捨てたりするパフォーマンスからも分かるように、勝利への執着心が人一倍強く、そのストイックさが時に周囲とぶつかるように見えてしまうのかもしれません。
結構ライダー仲間からは、強引との印象もあるかもしれませんね。
予算のあるチームのステージ勝利が少ない点についても、鋭い視点だと思います。スポンサー目線で見ると、もちろんステージ優勝は派手なアピールになりますが、同時に「総合上位にいてテレビの露出時間を長く稼ぐこと」も非常に重要視されます。
Lidl-Trekに関しては、まさにおっしゃる通りだと思います。序盤のトラブルで想定していたプランが崩れ、グランツールで手ぶらでは帰れないというチームのプレッシャーが、終盤でのチッコーネの執念の走りに繋がっているのでしょうね。
ジョナサン・ミランが最終ステージで勝てるのかも、トレイン次第というか、ポール・マグニエの足に勝る脚力を見せないと~。
また、Decathlon CMA CGM Teamのフェリックス・ガルや、Red Bull – BORA – hansgrohe(ペリツァーリ、ヒンドレー)の動きに関しても同意見ですね。
グランツールの第3週に入ると、総合トップ10やトップ5を失うリスクを負ってまで逃げに乗るより、現在の順位を確実に守り切るという方針に切り替えるチームが多くなります。スポンサーへの報告を考えても、手堅く総合上位をキープすることは立派な成果となるため、チーム全体で守りに入っている可能性が高いと考えられます。
ただ、やっぱりステージ優勝はしないとアピール不足。Netflixでも取り上げられてましたけど、やはり勝利でしょう。
そのために、Decathlon CMA CGM Teamはオラフ・コーイ、ティシュ・ベノートと獲得した訳ですからね。まあ、ポール・セイシャスが台頭してきたからツールはいいでしょうけど。フェリックス・ガルは移籍とのうわさも。
Lidl-Trekの出資割合とドイツ系チーム化の噂も興味深いですね。もし来季に向けてドイツ色がさらに強まるとなれば、チーム編成や獲得する選手層も大きく変わってくるはずです。今からストーブリーグの動向にも要注目ですね。
対照的に予算の限られているチームとしてクイックステップはチーム想定以上の活躍を、しているのではないでしょうか?
今シーズンからレムコが抜け、ウルフパックという名前の通りクラシックやステージ優勝を狙うチームへと変わりましたが、今シーズンの道のりは、メルリールの腰痛などで、シーズン初勝利が過去最遅と苦しんでいました。
ところが、マニエが予想外の活躍をしました。ジョナサンミランのスプリントがロングスプリントで最高速度を出して勝利するという点が、マニエのマウンテンバイク出身で、テクニックを生かして位置どりやすり抜けして勝利をさらうスタイルに合っているのかも知れません。
また、予算が限られていても、リドルから元ミラノサンレモ勝者のストイベンが移籍してた点も結果に繋がっていると思います。逆にリドルとしては、トゥーンス、ストイベンがいないのが痛いと思います。
アルペシンプレミアテックも予算は増えましたが、グローブスがいなくなり一気に存在感が薄くなったのが気になります。(逃げにはよく乗っている選手はいますが)
レムコ・エヴェネプールが抜けたからねえ~。でも、ポール・マグニエは、昨年の19勝から、今回はジロでの3勝。この飛躍は大きかった。正直、まだジョナサン・ミランにはかなわないのではと思ってました。
混沌とした集団内を縫うようにすり抜け、最適なタイミングで勝利をさらう彼のプレースタイルは、現代の複雑なスプリント戦術において非常に理にかなっている。
マウンテンも抜きどころがないですからね。これは大きく役に立っているでしょう。
ジャスパー・ストゥイヴェンもSoudal – Quick Stepにきて再生してますね。トレインでもいけるし、厳しいステージで残って勝負も可能。Lidl-Trekはトレインが少し弱体化したかなあ~。
Alpecin-Premier Techに関してもご指摘の通りですね。カーデン・グローブスが抜けたことで、確実な勝利をもたらすフィニッシャーが不在となり、集団内での存在感が一気に薄くなってしまいました。
積極的に逃げに乗る選手の姿は見られますが、スプリントで確実に勝ち切れる絶対的なエースの不在は、チーム全体のレース運びや他チームからの警戒度において大きなマイナスとなったのは確か。
総じて、各チームの台所事情と選手の移籍が、勝敗の行方に如実に表れている非常に興味深いシーズンと言えますね。
毎日のレース解説と鋭い考察、興味深いです。ありがとうございます。
リドルに関して、ビスマのドイツ人レースディレクター、グリシャニールマン氏が就任したようです。
去年のツールで公のコメントで「ポガチャル、UAE含めて我々の作戦を理解していない事は幸いだ」と発言して、バチバチにやりあっていた人です。
リドルのドイツ系チーム化には、コフィディスのシモンゲシュケも深く関わっていて、運営側として関わるようです。
リドルの現メンバーに関しては、ミランに関しては、UAEへ行くという話も有りますが、レッドブルからリドルにヨルディメーウスが移籍するという話もありますし、チッコーネも含めて今の所どうなるのかさっぱり分かりません。
噂では、フェリックス・ガルがLidl-Trekに。ジュリオ・チッコーネはどこかに行くでしょうね。ただ、アシストとしては嫌なのでスーパーチームはないでしょう。しかし、何人エースを作るんだか。誰をツールでエースとするのか困りそうですね。